天皇はなぜ紙幣に描かれないのか～教科書が教えてくれない日本史の謎３０～

過去の人たちが、どのような考え方をしていたか、木簡や石碑といった断片的な史料を手掛かりに実態に迫っていくエッセー。ｗｅｂ連載を基にしており、各話とも８ページほど、語り口調でもあるので、明快な論旨と相まってさくさく読める。著者がこれまでに行ってきた発掘や調査の経過をたどりつつ、順を追って考察を進めていくルポルタージュのようでもあり、身近な疑問・題材から歴史をひもとく面白さを追体験できる。歴史の解釈が、今なら今、昭和前期なら昭和前期の、時代の空気や要請に左右され形作られるものである、という視点が貫かれており、歴史を見る目を養う手助けにもなるだろう。サブタイトルの「教科書が教えてくれない日本史の謎３０」は、いかにもよくある歴史雑学本のような趣だが、蘊蓄を並べただけのものではない。上記の通り、むしろ身近な手掛かりを基に歴史を解き明かす過程を楽しむ本だ。考察や根拠が端折られて、展開が強引に思われるところもあったが、分量の制約なども踏まえると仕方ないのだろう。なお、タイトルの「天皇はなぜ紙幣に描かれないのか」に対する結論は、意外なものではなく、やや拍子抜けだった。前述のサブタイトルを含め、タイトルのつけ方が安直で、勿体ない気がした。